9月5日(火)欧州最新動向セミナーが、徳島経済産業会館(KIZUNAプラザ)において開催された。講師には、土屋朋美氏(日本貿易振興機構(ジェトロ)調査部 欧州課課長代理)を迎え、「欧州経済概況~スペイン、イタリアを中心に」をテーマとして講演いただいた。本会からは長岡代表幹事、坂田理事、三好理事をはじめ13名が参加した。
EU、スペイン、イタリアの経済概況、貿易動向、政策動向の他、スペイン、イタリアへの直接投資や進出日系企業の動向についてもお話しいただき、10月1日からの本会海外研修事業の参考となった。
<講演要旨>
1-1.欧州連合(EU)経済概況
EUは名目GDP世界3位、人口世界3位の重要市場。加盟国は27か国(英国は2020年1月31日離脱:Brexit(ぶれぐじっと))。EUの実質GDP成長率は2020年に新型コロナ禍の影響から△5.7%となったが、2021年は+5.4%と回復。しかし、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰等の影響で2022年は+3.5%となり、今後も先行き不透明感から1%台の低成長を予測する。
1-2.イタリア経済概況
イタリアの実質GDP成長率は2020年第2四半期に前期比△11.3%となったが、2020年第3四半期には、新型コロナウィルス感染拡大後のEU復興基金等を下支えにした回復により前期比+11.7%となった。しかし、ウクライナ情勢の影響による下振れ圧力は強く、回復率は当面1%程度が見込まれる。
1-3.スペイン経済概況
スペインは欧州第5の経済規模で、失業率はEUで最も高い水準だが、旺盛な内需と観光で堅調な成長を遂げてきた。実質GDP成長率は、2020年△11.3%から2021年、2022年ともに+5.5%と好調。インフレ、利上げで消費は伸び悩むも、投資や国際観光が好調。
2-1.EU貿易動向
2022年のEU域内貿易(27加盟国間の貿易)は、輸出が4兆2,300億ユーロで前年比22.9%増、輸入が4兆1,000億ユーロで21.2%増だった。一方、EU域外貿易は、輸出は2兆5,730億ユーロ(前年比12.8%増)、輸入は3兆20億ユーロ(23.4%増)と4,290億ユーロの貿易赤字となった。EUの日本に対する輸出入は2022年に新型コロナ禍前の2019年を上回り、対日輸出では、化学品で医薬品が大幅増。対日輸入は、機械・輸送機器が最大品目だった。2019年2月に発効した「日EU・EPA」(経済連携協定)は、2023年4月に4回目の合同委員会を開催し、効果的な運用に向けて協議している。
2-2.イタリア貿易動向
イタリアは、輸出入ともにドイツが最大の貿易相手国。EU加盟国が輸出入総額の半分以上を占める。中国からの輸入額は2022年に前年比+49.1%増加し輸入国第2位となっている。対日貿易は、衣料品、医薬品などの輸出増加もあり黒字が継続されている。
2-3.スペイン貿易動向
スペインの主な輸出相手国は、EU圏のフランス、ドイツ、ポルトガル、イタリア、ベルギー。主な輸入相手国は、2022年には中国がドイツを抜いて1位となり、続いてドイツ、フランス、アメリカ、イタリアとなっている。対日貿易は、乗用車、金属製品等の輸入増加などもあり、赤字基調となっている。
3-1.政策動向
EUの6つの最優先課題のひとつ「欧州グリーンディール」が発表した「Fit for 55」の主要法案が2023年に成立。2030年までに温室効果ガスを1990年比で少なくとも55%削減する目標を明記した欧州気候法と2050年気候中立(温室効果ガスの実質排出ゼロ)目標の達成を掲げている。また、欧州委員会は、2022年5月、天然ガスを中心としたロシア産化石燃料依存からの早期脱却計画「リパワーEU」を発表しており、エネルギー危機への対応として、省エネの推進、エネルギー供給の多角化、再生可能エネルギー利用の促進を3本柱に掲げる。
4-1.日本と欧州間の直接投資
西欧10カ国(ドイツ、英国、フランス、オランダ、イタリア、ベルギー、ルクセンブルク、スイス、スウェーデン、スペイン)と日本間の直接投資額は、2022年日本→西欧406億ドル、西欧→日本120億ドルで、直接投資残高は、2021年12月時点で、日本→西欧5,241億ドル、西欧→日本1,546億ドルとなっている。スペインに向けては、再生可能エネルギーや化学分野での投資・M&Aが目立つ。今後、グリーン分野などで日欧ビジネスの協業や事業拡大のチャンスの可能性が見られ、イタリア、スペインでの進むと考えられる。
4-2.進出日系企業動向
欧州進出日系企業拠点数(2021年)は、欧州32カ国中、1位ドイツ(1,683社)、2位英国(867社)、3位オランダ(667社)、4位フランス(587社)、5位イタリア(389社)、スペインは7位(278社)となっている。最近では、イタリアへ、日本電産(現:ニデック)や三井物産の投資が、スペインへは、電通や関西電力の投資がプレスリリースされている。
また、イタリア、スペインともに若者を中心に日本の文化(マンガ、アニメ等)は人気で、日本食も一般的となっているなど日本が浸透している情報が挙げられた。